当グループでは、急性肝障害から肝硬変、肝不全まであらゆるステージの肝疾患を診療しています。最新の情報をもとに、患者さん一人一人の病態や背景に合わせた医療を提供しています。診療や治験で得られた臨床データの集積・解析や、多施設での臨床研究や基礎的研究も行っており、医療の発展に貢献しています。
九州肝癌研究会における疫学研究において、2009年をピークに肝細胞癌は減少しつつあり、特にC型肝炎に起因する肝癌は順調に減少してきました。その一方で、B型・C型肝炎ウイルスによらない肝癌(非B非C型肝癌)が急増し、2021年の調査では、非B非C型肝癌の占める割合は60%を越えていること、肝がんの発生件数はわずかに増加に転じたこと、更に診断時の年齢は80歳以上が3割を超えていることが明らかになりました。こうした癌の発生には人口の高齢化、アルコールの過剰摂取や肥満による代謝関連肝疾患が深く関与していると考えられています。こうした患者さんは従来のB型・C型肝炎に起因する肝癌と比較し早期発見が難しく、診断時にはすでに進行癌であることも珍しくありません。これに対して、従来の肝切除術、経皮的ラジオ波焼灼術、肝動脈化学塞栓術、肝動注化学療法による肝臓内の病変に対する治療に加え、精密な放射線療法や、新規の分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新しい全身治療薬が可能になりました。それぞれの治療の長所、短所を熟知し、患者毎に最適な治療を駆使した「集学的治療」の重要性が一層増してくると考えられます。
肝癌診療において、早期発見、早期治療はとても重要です。肝がんの画像診断法として、超音波検査(エコー)、CT,MRI検査がありますが、それぞれの長所短所を考慮し適切な画像診断、および経過観察を計画しています。マイクロバブルでできた造影剤(ソナゾイド)を用いた造影エコーやEOB-MRIの登場によりより精密な肝癌の診断が可能になっています。
当グループでは、主に消化管腫瘍性病変に対する診断・内視鏡治療を日々行っています。病変の内訳は、食道表在癌・胃腺腫・早期胃癌・大腸腺腫・早期大腸癌、など消化管腫瘍性病変が主体となっています。
診断は主に内視鏡観察・超音波内視鏡、必要に応じてX線透視などの画像検査を中心に行っています。近年、消化器内視鏡の光学系機器の著しい進歩により内視鏡画像の解像度や特殊光観察が格段に向上しています。当院では、通常白色光観察・色素法観察を基本に、拡大内視鏡観察・NBI(Narrow Band Imaging)等の画像強調観察を用いた性格な病変の存在診断・範囲診断・癌の深達度診断を精力的に行なって参りました。2020年以降、新たな内視鏡システム「EVIS X1」を導入し、従来の画像強調観察に加え本機器に搭載されている新たな画像強調機能を用いた、より精度の高い内視鏡診断を目指しています。また、大腸内視鏡検査時にはAI診断が可能なEndo BRAINを搭載した機器を用いており、病変の見逃しを少なくする努力を行なっています。また、内視鏡検査時に生検を行った症例は週に一度開催している「内視鏡所見会」において、内視鏡所見と生検病理所見の検討を行ない診断や治療方針の確認や情報共有を行なっています。
一方、消化管腫瘍に対する内視鏡治療はpolypectomy・EMR/ESDを中心に行なっています。年間の内視鏡治療件数は、胃ESD約120例、食道ESD約40-50例、大腸EMR約200例、大腸ESD約40-50例であり、年々増加傾向にあります。しばしば、全周性の食道表在癌や、瘢痕合併胃癌、残胃癌など治療難渋例のご紹介もありますが、治療効果が期待できる症例は積極的に内視鏡治療を行なうようにしています。内視鏡治療症例中、典型例や非典型例をピックアップし、治療前の画像所見と治療後の病理所見との対比を行い、当研究室で伝統的に開催されてきた「久留米消化器病研究会」(月に一度院内で開催)等において症例検討を行なっています。消化管内視鏡検査の内視鏡画像撮影技術及び形態診断能の共有と維持・向上に努めています。
当グループの若手医の教育方針として、一つ一つの症例経験の積み重ねや院内研究会でトレーニングを積み基本的な診断能力・内視鏡治療を身につけることを第一目標としています。その上で、上部消化管腫瘍もしくは大腸腫瘍を専門としたグループのいずれかを選択し、更なる診断・治療・研究を追求したスペシャリストを目指します。
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)グループでは炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎 約400名、クローン病 約200名の診療を主に行っています。久留米大学では九州初となるIBDセンターを有しており、筑後地域にとどまらず、大分、佐賀、熊本など近隣県からも含め、年間約80名のIBD患者さんをご紹介いただいています。治療指針に基づいて、抗TNFα抗体、抗IL-12/23抗体、接着因子阻害薬、JAK阻害薬、免疫調節薬、血球成分除去療法などを用いた最新治療を行っており、また国際共同治験を含む数多くの新薬の臨床試験にも参加しています。
IBD専門医による質の高い治療を行うだけでなく、私たちが行ってきたIBDの治療成績や臨床研究を多くの国内・国際学会や国際論文に発表しています。さらに若手の医師に発表や論文作成の機会を多く設け、次世代のIBD専門医の教育に取り組んでいます。
日常臨床においては、IBDだけでなく、消化器内科全般についての幅広い知識・技術を有するような医師の育成を目指しています。上・下部消化管内視鏡検査や消化管X線検査、カプセル内視鏡、小腸内視鏡などの数多くの検査技術の習得、画像診断の精度の向上に取り組んでいます。
IBDグループの医師5名が消化器病全般の診療の中で幅広い知識や技術の習得に努めながら、IBD患者さんの外来診察や内視鏡検査、病棟業務を行っています。
栄養士、看護師、薬剤師、臨床心理士などメディカルスタッフを交えたチーム医療を実践しています。
月に1回小児科、外科、免疫学講座との合同カンファランスや医師、看護師、薬剤師、栄養士など他職種参加のIBDサポートセミナーを定期的に開催し、チーム医療の向上に向け活動を行なっています。
当グループでは、主に肝硬変症に起因する門脈圧亢進症・食道・胃静脈瘤に対する診療を行なっています。食道・胃静脈瘤は一旦出血すると致死的な転帰をたどることも少なくないため、本邦では予防的治療を行うことが一般的となっています。予防的治療前には、multidetector CT(MDCT)-coronal像やMRAを用いた詳細な血行動態評価を行い、安全かつ確実な治療を行うように心がけています。治療は、主に内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)、内視鏡的硬化療法(EIS)、シアノアクリレート系組織接着剤注入法などの内視鏡的治療に加えIVR治療も行っています。したがって、静脈瘤に対する総合的な治療選択を立案することが可能です。一般的に内視鏡治療に難渋する胃孤立性静脈瘤例や、患者のQOLを大きく損ねる肝性脳症(シャント脳症)併発例に対しては、積極的にバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)を行なってきました。当科のB-RTO件数は延べ200例を超え本邦では有数の症例数を誇ると同時に、良好な治療成績を報告しています。また、一般市中病院では治療困難な出血リスクの高い異所性静脈瘤(十二指腸静脈瘤・直腸静脈瘤など)に対しても積極的に治療を行っており、県内外から多くの紹介をいただいています。本疾患は、緊急性・高リスクを伴うことが多く当院の高度救命救急センターと連携の上、緊急搬送にも対応しています。
当グループでは、胆道(胆管・胆嚢・十二指腸乳頭部)、膵臓の良性疾患や悪性疾患の診断と治療をおこなっています。胆道や膵臓領域の診断には、腹部エコー、CT、MRIといった画像診断に加え、超音波内視鏡(EUS)や内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)、さらにこれらEUSやERCP下に行われる病理診断といった専門性の高い内視鏡診断が重要な位置を占めています。特に近年増加する膵臓癌の早期発見にはEUSが威力を発揮します。治療では、良性疾患には内視鏡的治療を主軸とした低侵襲治療、進行癌治療では内視鏡的ステント治療に加え当科の腫瘍内科医が常駐する「がん集学治療センター」あるいは地域の化学療法室を有する施設と連携し、非切除例に対する全身化学療法、外科治療前後の全身化学療法や放射線化学療法、をおこなっています。当院では、消化器内科・肝胆膵外科・放射線科・病理診断科と週1回の合同カンファランスを行い、各科の垣根を超えた連携による正確な診断と患者個々に沿った最適な治療法を検討しています。また月1回の術後症例や難渋症例の画像から病理を検討するカンファランスを開催し、診療の精度維持および向上に努めています。
無論、患者さんやご家族の十分な理解と合意を最も尊重した医療の提供に心がけています。